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受動喫煙対策が義務化へ
昨年7月(令和元年)、健康増進法の一部を改正する法律が成立・公布されました。
改正法では、国民の健康の向上を目的として、多数の人が利用する施設等の管理権原者等に、多数の人の望まない受動喫煙を防止すための措置義務を課すものとしています。
この法律により、
- 令和元年7月1日から、学校・病院等は原則敷地内禁煙(屋内全面禁煙)
- 令和2年4月1日から、飲食店・職場等(事務所・工場)には原則屋内禁煙
が義務づけられることになります。
既に労働安全衛生法68条の2により受動喫煙対策は努力義務とされていましたが、この取り組みが一段と進み、努力義務から義務へと変わることになりました。
これにより喫煙者のいる職場では、早急に対策を講じないと、企業側の責任を問われることとなります。仮に、施設管理権原者が違反した場合は、罰金50万円以下となりますので、早急な対応が必要となります。
受動喫煙防止対策の目的とは
受動喫煙とは?
タバコの煙には、タバコを吸う人が直接吸い込む「主流煙」と、火のついた先から立ち上がる「副流煙」に分かれます。副流煙には主流煙と同じく身体に有害な成分が含まれていて、ニコチン、タール、一酸化炭素などの成分量は主流煙よりも多いといわれています。
この副流煙を、自分の意思とは関係なく吸い込んでしまうことを「受動喫煙」といいます。
受動喫煙にさらされると、がんや脳卒中、虚血性心疾患、呼吸器疾患などのさまざまな病気のリスクが高くなり、さらには妊婦や赤ちゃんに悪影響を及ぼすことがわかっています。
受動喫煙による死亡者も出ている
厚生労働省によると、受動喫煙による年間死亡者数は、推定約1 万5 千人と言われており、受動喫煙が、肺がんや虚血性心疾患等、様々な疾患と関連することが明らかとなっています。
リスクの増加率としては、脳卒中1.3倍、肺がん1.3倍、虚血性心疾患1.2倍と無視できない割合と言えます。
このため、自らの意思で受動喫煙を避けることができる環境整備を促進するとにより、受動喫煙による健康への悪影響を未然に防止することを目的として、国及び各都道府県でも法律や条例対策を行っています。
企業では従業員からの訴訟リスクがある
受動喫煙対策が義務化された背景には、職場の「スモハラ」問題があります。
近年、受動喫煙により健康被害を受けたと従業員が会社を訴えたという事例が複数発生しています。
これらの訴訟では会社が数百万円の和解金を支払うことで和解が成立していますが、会社にとっては受動喫煙による従業員からの訴訟リスクが顕在化してきたことに疑いの余地はありません。
また、昨今ではソーシャルメディアによって会社の内部情報が共有化されることも出てきています。
人手不足と言われる中、受動喫煙がある、スモハラがある、という書き込みがなされた場合、従業員の採用が更に困難になる可能性もあります。特に、喫煙率が比較的低い女性からは敬遠されることが増えると予想されます。
必要な対策
事務所や工場、飲食店やホテルなど、多数の人が利用する施設では、原則屋内禁煙もしくは、喫煙専用室内でのみ喫煙可となります。
職場に喫煙者がいる場合は、屋外に喫煙スペースを設けるか、喫煙専用の部屋を設置する事が必須になってきます。
それでは、喫煙専用の部屋とはどのようなものになるでしょうか。
喫煙室の条件(事務所・商業施設・宿泊施設の場合)
厚生労働省HP 効果的な分煙対策を行うための留意事項によると喫煙室は以下の条件を満たす必要があります。
- 出入口の風速を毎秒0.2m 以上確保する
- たばこの煙が漏れないように壁、天井等によって区画する
- たばこの煙を屋外に排気する
- 施設の出入口および喫煙専用室/加熱式たばこ専用喫煙室に法令により指定された標識の掲示等
※喫煙専用室および加熱式たばこ専用喫煙室には、20 歳未満の者(従業員含む)を立ち入らせてはいけません
※経過措置として、脱煙機能付き喫煙ブースを設置することが認められる場合があります
従って、単にパーテーションで仕切っただけでは駄目と言うことになります。
また、煙が外に漏れないようにしっかりと囲った部屋にした場合は、同時に複数の人が喫煙することにより、浮遊粉塵・ニコチン・揮発性有機化合物などの有害物質を含んだ煙が喫煙室に凝縮され、喫煙室の出入りの際、その煙草のニオイや煙が外に勢いよく排出され、喫煙室周辺の環境が低下する原因になります。
従って、煙が漏れないようにするのと同時に、屋外への排気装置が必須となります。
屋外の喫煙スペースは望ましくない?
本来は、喫煙者の健康も考えると、企業としても禁煙を進める必要はありますが、それによって喫煙者のストレスになってしまうのも問題です。
従って、まずは屋外に喫煙スペースを設けるということを考える企業も多いと思います。
しかしこの方法をとった場合、受動喫煙対策としては効果があるかも知れませんが、事務所と喫煙場所の距離が離れ、喫煙するために喫煙者が⾧時間離席することになります。
これは、非喫煙者からすると、仕事をさぼっているとの見方もでき、不公平感・モチベーションの低下をもたらす原因にもなり、得策とは言えません。また喫煙者にとっても、仕事を中断し⾧時間離席することで、集中力が途切れ、仕事の効率も下がることもあります。
ですから、基本的にしっかりと煙が遮断された喫煙専用室を屋内に設けることが望ましいと言えます。
受動喫煙対策を行う場合、国から支援が受けられます
屋内に喫煙室を設ける場合、財政的にその負担が大きいものとなります。そのため、厚生労働省では、助成金及び税制措置を設けています。
助成対象は、
- 一定の要件を満たす各種喫煙室、ならびに屋外喫煙所の設置に必要な経費
- 上記以外に、受動喫煙を防止するための換気設備の設置などの措置に必要な経費
となり、助成額は、
- 経費の2分の1(上限100万円)、飲食店は3分の2
となります。
また、器具や設備を設置した場合、一定の要件を満たせば取得価額の特別償却(30%)又は税額控除(7%)の適用が認められます。つまり、節税効果があるということです。
以上は、満たさないといけない一定の要件がありますので、全てが全て認められる訳ではありませんが、受動喫煙対策に本腰を入れて取り組む企業にとっては非常に頼もしい制度となっています。是非、ご検討ください。