クリニックのリフォームで気を付けたいポイントとは?

クリニックのリフォームで気を付けたいポイントとは?

クリニックの差別化・専門化の流れの中で

日本医師会の地域医療情報システム(2018年11月)によると、医療需要は今後大きく増加することが見込まれ、クリニックの数(供給)が医療需要に対して不足することが危惧されます。

一方で、東京都の人口10万人あたり一般診療所数は92.44所と全国平均の71.57所を大きく上回っている状況で、クリニックがひしめき合っている状況が伺えます。

ここ埼玉県に目を向けると、東京都の人口10万人あたり一般診療所数は53.78所となっており、全国平均の71.57所を大きく下回ることから、クリニックは供給過多になってはいないと言えます。

しかし、さいたま医療圏だけをみると68.67所と全国平均に近くなっており、皮膚科や眼科など診療科目によって全国平均を上回るものがあります。

このように、今後診療科によってはクリニックの数(供給)が需要を上回る地域出てくることが推測されます。

また、日本の患者はかかりつけ医ではなく、大きな総合病院や大学病院に行こうとする傾向があり、クリニックによっては患者の減少に直面しているところもあると聞いております。

以上から、クリニックの経営を考えた場合、今後より一層の専門化や差別化が求められている状況であると考えられます。

このページでは、あくまで設計事務所・工務店の観点ですが、リフォームにより他クリニックと差別化するためのポイントについて書いていきたいと思います。

集患率を下げる要因とは

患者数の維持・向上はクリニック経営上非常に大きな課題となっています。

いわゆる集患率と一言で言うことができますが、この集患率を下げる要因として建物の観点から考えられるものは以下の通りです。

  1. 古い
  2. 暗い
  3. 狭い

地域に根付いて長く運営されており、医業承継等により引き継がれたクリニックは、建物の経年劣化が進み、このような状況になりがちです。

主婦(2児の母)
私があまり行きたくないなと思う病院の印象を上げると以下のような感じです。
・建物が老朽化していて、外壁にひびがあったり苔が生えている
・入り口で古びたスリッパに履き替えなければならない
・窓が少なく、全体的に暗い印象の待合室
・学校のような白い長い蛍光灯の照明
・待合室の椅子やキッズスペースがボロボロ
・待合室が密集している印象を受ける

 

実際に弊社でも、築40~50年のクリニックのリフォームや建て替えなどを行っておりますが、特に建て替え後のクリニックは集患率が大きく改善し、患者数が増えていることが分かっています。

従って、フルリフォームだけでなく、部分リフォームをする場合でも、上記の3つの要因を排除・改善することを念頭に置くことが有効であると考えられます。

また、新規の患者だけでなく、既存の患者の再来院も集患率に影響します。

日本生産性本部のJCSI(顧客満足度調査)では、(クリニックの満足度を調べたものはありませんが)産業全体に言える傾向として、本質的なサービスの品質は勿論ですが、従業員対応や施設のデザインなど多岐にわたる項目が顧客満足度に影響しているとのことです。

そして、満足度が最終的にリピートやクチコミという患者の行動に影響していることもまた明らかになっています。

従って、再来院を促すためには、先生の医療サービスだけでなく、従業員の接客態度、建物の面からも来院した患者に悪いイメージを抱かせない作りにする必要があると考えられます。

主婦(2児の母)
病院に行くときに心躍る人はあまりいないと思います。
体調がとても悪い状態で行く方、不安を抱えて行く方。状況は様々ですが、晴れやかな気持ちで病院に行く方はいらっしゃらないと思います。
私自身もかかる病院を選ぶ時には、その病院の雰囲気や環境、設備も基準の一つにしています。

リフォームで気を付けたい共通ポイント

上記の問題や課題を念頭に、診療科目やリフォーム箇所を問わずにリフォームの際に共通して考慮に入れたいポイントを書いてきたいと思います。

安心感の醸成

言わずもがなですが、何らかの病状を抱えて来院する人は少なからず不安に思っているものですし、待ち時間が長くなれば自ずとイライラしてしまうものです。

そのような、不安やイライラを建物により根本的に解消するのは難しいのですが、待合室の色調や過ごしやすさに配慮することで、多少の軽減にはつながります。

例えば、

  • 待合室はできるだけゆったりとした解放感がある空間設計を心掛ける
  • 待合室や受付カウンターの照明を蛍光灯からLEDの間接照明に変える
  • 壁紙や床を暖かい色を落ち着いた明るい色に張り替える
  • 待合室の椅子をくつろぎやすいものに変える
  • 椅子の位置を工夫し、玄関との対面は避ける。また、患者が相対するようなレイアウトは避ける
  • 小窓を活用し、プライバシーを保護しながら採光を十分にとる
  • 段差を無くし、バリアフリーにする。ストレッチャーや車いすの幅を考慮した廊下にする。
  • トイレは患者用・スタッフ用で分ける。また男女別にする。待合室からトイレが見えないようにすることも必要。
  • 暑すぎもせず、寒すぎもせず、適切な室温コントロールとする。
  • 室温コントロールには、壁や床の断熱が重要。また、内窓はコストパフォーマンスが高く、高い断熱効果がある。

などの対策が挙げられます。

主婦(2児の母)
私は現在幼児2人を育てている母ですが、子供が生まれてから、これまでこんなに病院に行ったことあったかなと思うくらい病院に行く頻度は増えました。
体調を崩せば小児科へ、予防接種でも小児科へ、肌が荒れれば皮膚科へ、結膜炎になれば眼科へ、異常があってもなくても定期的に歯医者へ…などなど、様々な病院にお世話になっています。
どの病院でも子供にとって「病院に行く」ということは、得体の知れない不安を抱くものであるようです。
また親にとっても、子供がぐったりしていれば不安は募りますし、一方で元気いっぱいであれば他の方に迷惑をかけないかとそわそわしてしまいます。
病院でこれらの不安や心配が募るのは、待合室で診察を待つ間がほとんどだと思います。
病院の外観や快適な環境は、患者が診察を待つ間の心の負担を減らすために心理的効果があります。
つまり、病院の入り口から待合室までの環境や設備が安心できるものであることは、多くの患者にとってかかりつけ医を選ぶ上で重視するポイントだと思うのです。

衛生状態・清潔感の維持

様々な病気に罹患した患者が訪れるクリニックは、ウイルスなどの拡散、院内感染には十分注意する必要があります。

従って、例えば以下のような対策が必要となります。

  • 適切な換気設備を設け、汚れた空気を排出し、綺麗な空気を取り込む空気循環を作る
  • 壁材や床材を抗菌仕様のものにする。
  • 次亜塩素酸を使った空気清浄器などで空気中の病原菌を殺菌する
  • エントランスにアルコール消毒スプレーを設置する

また、清潔感と言う点では、清掃が行き届いていることが必要です。

下足のまま診察を受けるクリニックの場合は、頻繁に清掃が必要となります。

また、壁や床、天井については、いくら清掃をしっかりしていても経年劣化によって清潔感が薄れてしまいますので、汚れが付きにくい素材に張り替えることが有効です。

トイレについても、患者に与える印象は非常に強くなります。旧来のタイル張りのトイレや、芳香剤が匂うようなトイレは、いくら掃除が行き届いていても不潔感を与えてしまいます。下水の臭いが上がってこないような構造にすることも重要となります。

主婦(2児の母)
感染症の診察も行う内科や小児科ではなおのことですが、不特定多数の方が使用したスリッパ、しかも年季が入っているようなものに履き替えるのはやや抵抗があります。
また、今現在は新型コロナウイルス、冬場であればインフルエンザの疑いの患者さんも待合室で一緒になる可能性もあります。
そのような場所で座席が密集していると、病院で不要なウイルスをもらってしまう不安は増します。
待合室の椅子に穴が開いていたり、キッズスペースが薄汚れているような状態をそのままにしているのを目にすれば、待合室の管理はあまりしていないのかなと思ってしまうこともあります。
子供が遊びたがっても極力そういった場所では遊ばないように仕向けています。

信頼感の醸成

建物の外観はそのクリニックの顔として、通行する人に強い印象を与えます。

経年劣化が進んだ建物だと、”閉院してしまったのではないだろうか?”という印象を与えかねませんし、”患者が来ないから綺麗にできないのではないか?患者が来ないのは先生の腕が悪いからではないか?”とうがった見方をされかねません。

このようにある種の信頼感にまで影響してしまうのがクリニックの外観ですので、定期的な清掃は勿論のこと、塗り替えなども定期的に行いたいものです。

更に、分かりやすさというのも非常に重要なポイントです。通行人に”ここにこんなお医者さんがいるんだ”という気付きを与えるような、ちょっとしたアピールが望まれます。

主婦(2児の母)
「人は見た目が9割」という言葉がありますが、病院の外観や設備、備品の老朽化というものはかなり強く印象に残ると思います。
いろんなものが老朽化している上に、照明までやや寂しい印象を受けるようなものであれば不安がマシマシです。
先生の口コミが良かったから来てみたけれど、ほんとにこの病院は大丈夫かなと不安になった経験もあります。
我が家の場合、先生は良い方できちんと治療はしていただきましたが、現在かかりつけ医として利用はしていません。

入りやすさ、動きやすさに配慮する

出入口とアプローチ

バリアフリー化が大前提となります。アプローチについては、スロープと手すりを設けて足が不自由な方でも移動が楽なようにします。

出入口については、開き戸ではなく、引き戸にすることが望ましいと言えます。

また、室内に入る際、スリッパへの履き替えが本当に必要なのかは一考の余地があります。スリッパを使いまわすと感染症の恐れがありますし、靴を脱いだり履いたりを繰り返すと、履き違いが起きることもままあります。靴箱やスリッパを置くスペースにより、待合室のスペースを圧縮してしまうのも問題です。従って、清掃のコストは上がりますが、下足で移動してもらうことも選択肢にいれたいところです。

待合室や廊下

患者が迷わないように大きな表示板を設ける必要があります。また、移動が苦痛にならないような動線の確保が必要です。

階段や廊下には手すりの設置が必要です。

スタッフの作業効率化

作業効率をアップさせるためにはスタッフの動線確保、作業性の向上も重要となります。

特に、受付や事務スペースは散らかることが多いため、適切な収納スペースの確保と整理が必要となります。

休診日は最短で

患者、医者双方にとって休診日が少ないに越したことはありません。

リフォームの際は効率的な段取りが必要なります。

リフォームで気を付けたい診療科ごとのポイント

ここからは、弊社の実績をベースに各診療科ごとにリフォームで気を付けたいポイントについて記述していきたいと思います。

主婦(2児の母)
私が患者目線で行きたい、子供を行かせたいと思える病院は概ね以下のような感じです。

・建物の外観がきれい
・スリッパに履き替える必要がない or スリッパの消毒設備がある
・待合室の窓が大きく、照明も明るい
・空気清浄機を設置している
・キッズスペースがあり、かつ清潔な状態である
・トイレがきれい

子供が怖がる歯医者などでは、診察前の緊張を和らげるためにもキッズスペースがある病院を選びます。
また、託児サービスがある歯医者さんも親的にはとても助かります。
小児科や内科など、感染症に関する診察を行う病院の場合は下記のようなポイントも重視します。

・感染症が疑われる場合、隔離できる導線が確保されている
・待合室の座席が密接していない、間隔を取れる広さがある

今流行している新型コロナウイルスだけではなく、風疹や水疱瘡、インフルエンザなど、飛沫・空気感染するウイルスはいろいろとあります。
自分や自分の子供がその疑いがあるときはできるだけ他の患者さんに近寄らないようにすべきですが、その導線を病院側がとってくれていることはとても重要だと思います。

小児科

  • 各種ウイルスの接触感染を防ぐための消毒スプレーの設置や、壁や床、手すりにはできるだけ抗菌仕様の部材を使う。
  • 各種ウイルスの飛沫感染を防ぐために、換気設備は必須
  • 内装はパステル基調でおだやかな色合いにし、まずはお母さんに喜ばれるようにする
  • キャラクターを使って親しみやすさをアピールをする
  • 親子で訪れるため、待合室の面積は広くとる必要がある
  • 乳児用のベットなども必要となる
  • 子供が不安になって泣くと、他の子も不安になるため安心感のある空間がなによりも重要
  • 子供を飽きさせないための本や玩具も必要

眼科

  • 目に疾患を抱える患者は高齢の傾向が多く、そもそも目に不自由がある方も多いため、バリアフリー化が必要。
  • トイレについてもバリアフリーかつ、高齢の方が使いやすいように手すりなどが必要
  • 目の検査をする際には、距離を空ける必要があるため、広さの設計には注意が必要

内科

  • 各種ウイルスの接触感染を防ぐための消毒スプレーの設置や、壁や床、手すりにはできるだけ抗菌仕様の部材を使う。
  • 各種ウイルスの飛沫感染を防ぐために、換気設備は必須
  • 床は薬品に強い素材とする
  • 様々な診察・処置が求められるため、広いスペースを取る。また、複数の診察室があると効率的。
  • 咳などの問題があるため、待合室では極力患者間のスペースを空けるような空間設計が必要。

整形外科

  • リハビリテーションルームや広い診察室、大型の医療機器が必要なため、各部屋の面積については綿密な設計が必要
  • 医療機器を使用するためには電気が必要であり、配線には綿密な設計が必要
  • 特に床の素材は、薬剤に強いものにする必要がある。
  • 血液や薬剤で汚れやすいため、清掃しやすい素材にする必要がある

他業種の建物をリノベーションしてクリニックにする

弊社が手掛けたものの中には、ファミリーレストランをリノベーションして、内科クリニックと薬局にしたものがあります。

他業種で使用されていた建物のリノベーション、既存のクリニックのフルリフォームは、全くの新築と比べると、やはりコストの上では優位となります。

クリニックを独立開業しようとする場合は、リノベーションも併せて検討することをお勧めします。