じめじめとした梅雨が終わると、いよいよ本格的な暑さの夏が到来します。
主にオフィスで業務をしている方の中には、職場が暑くて堪らないという悩みを持っている方も多いのではないでしょうか。
熱中症による救急搬送は毎年増加の一途をたどるなど、夏の暑さの厳しさが増している昨今、日中過ごす職場でクーラーを使わせてもらえない、クーラーの効きが悪いという状況があります。
なぜそのようなことが起きるのでしょうか。
ここではその理由や、対処法についてご紹介したいと思います。
クーラーを使っているけど、効きにくい理由
オフィスでクーラーが聞きにくい理由は複数ありますが、大きく分けると環境要因と人的要因に分けられます。
環境要因
①PCやプリンターなどのオフィス機器
電気機器は稼働中に熱を発します。
特にオフィスでよく見る大型のプリンターは稼働時にかなりの熱を発しています。
そのため、執務室と同じ空間にプリンターを設置している場合、部屋の気温も上がってしまうのです。
②照明
オフィスの照明は基本的に白色であることが多いのですが、白熱灯や蛍光灯は多くの熱を発しています。
③窓からの日差し
時間帯によって窓からの日差しが直接入り込み、室温を上げてしまいます。
強い日差しは業務にも支障を来します。
西日が入る位置に窓がある場合、夜間になっても室温が下がりにくくなります。
人的要因
①人口密度
オフィスの広さとそこで仕事をする人数によっても室温は変化します。
人数が多い一方でオフィスがやや狭い場合、人口密度が上がり室温も上がります。
隣席との距離が近ければ、閉塞感から体感温度はさらに上がります。
コロナ禍により密な状況が問題視されるようになりましたが、室温と言う点においても密な状況は望ましくありません。
②人の出入り
ドアの開け閉めは外気を呼び込むため、室温を上げてしまう要因となります。
人の出入りが多いオフィスでは、出入り口付近の席は特に気温が高くなります。
外出が多いのはもちろん、トイレや給湯室への出入りが多ければ外気と室温が混ざる頻度も高く、室温は高くなってしまいます。
オフィスの室温は法律で規定されている
あなたのオフィスでは誰が空調の温度設定をしていますか?じつは、オフィスの室温にも規定はあるのです。
まずは労働安全衛生法、第71条の内容です。
(事業者の講ずる措置)
第七十一条の二 事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、次の措置を継続的かつ計画的に講ずることにより、快適な職場環境を形成するように努めなければならない。
一 作業環境を快適な状態に維持管理するための措置
二 労働者の従事する作業について、その方法を改善するための措置
三 作業に従事することによる労働者の疲労を回復するための施設又は設備の設置又は整備
四 前三号に掲げるもののほか、快適な職場環境を形成するため必要な措置
さらに事務所衛生基準規則では下記の通り明記されています。
(空気調和設備等による調整)
第五条
3 事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が17度以上28度以下及び相対湿度が40パーセント以上70パーセント以下になるように努めなければならない。
つまり、管理者は従業員が安全かつ快適な環境で業務に集中できるよう、環境を整備する必要があり、オフィスの気温に関しては17度以上28度以下に調整しなければならないのです。
言い方を変えれば、これを怠り、従業員の健康状態に異常が発生した場合、法律に違反しているとみなされ労災認定までおります。
法律に違反しているにも関わらず、エアコンを付けなかったり、設定温度を下げないということを強要することは、「エアコンハラスメント」とまで呼ばれています。
夏場のオフィスの電気代の中で、およそ半分を空調費が占めています。つまり、その費用を削減できれば会社としては利益が増えることになるのです。
しかし、そういった利己的な理由で従業員に我慢を強いることは法律違反となることは知っておいた方が良いでしょう。
意外と勘違いされている「28度」・・・根拠ってあるの?
オフィスの空調コントロールパネルを見てみてください。28度で設定されているオフィスは意外と多いのです。
この「28度」という数字、何を根拠に設定されているかご存知ですか。
それを知る上で大きなポイントになるのが、政府が主導して実施されてる「クールビズ」です。
【クールビズとは】(以下環境省HPから引用)
地球温暖化対策の一環として、平成17(2005)年から政府が提唱する、冷房時の室温28℃を目安に夏を快適に過ごすライフスタイル。
室温の適正化とその温度に適した軽装や取組を呼び掛けており、省エネ型エアコンへの買換え、西日よけのブラインド、日射の熱エネルギーを遮蔽する効果がある緑のカーテンなど、気軽にできるアクションなどを呼び掛けています。
この概要を見てわかる通り、「室温28度」を環境省が推奨しているのです。
これをそのまま捉え、空調の設定温度を28度にしているオフィスが多いのですが、空調温度を28度にしても室温は28度にはなりません。
環境にもよりますが、上で書いた室温を上げる要因が重なれば室温は30度を超えてしまうことも十分あり得ます。
こういった事象を加味し、環境省の2020年度クールビズの概要からは「28度」という表記から「過度な冷房に頼らず様々な工夫をして」という表記に変更されています。
さらに、28度にこだわらないよう誘導するために、下記のような注意喚起までしています。
クールビズでは、「適正な室温」の目安を28℃としています。
なお、「28℃」という数値はあくまで目安です。必ず「28℃」でなければいけないということではなく、冷房時の外気温や湿度、「西日が入る」などの立地や空調施設の種類などの建物の状況、室内にいる方の体調等を考慮しながら、無理のない範囲で冷やし過ぎない室温管理の取組をお願いする上で、目安としているものです。
例えば、冷房の設定温度を28℃にしても、室内が必ずしも28℃になるとは限りません。そういう場合は、設定温度を下げることも考えられます。
「クールビズ」で呼び掛けている適正な室温の目安「28℃」は冷房の設定温度のことではありません。
(環境省HPより引用)
オフィスが暑い、寒い論争が起きるのはなぜ?
オフィスが暑くなる要因や、オフィスの空調に関する決まりについてまとめましたが、なぜそもそもオフィスのクーラー設定温度で論争が起きるのでしょうか。
オフィスのクーラーが効いてなくて暑い、効きすぎていて寒いと感じる違いについてまとめてみます。
同じオフィス内でも職種によって状況が違う
例えば、営業と事務や内勤営業ではどう違うでしょうか。
ランチの時等以外、基本的に終日オフィスにいる内勤営業や事務担当者。
クーラーが効いている室内では、冷たい空気が足元にとどまるため足からだんだんと冷えていきます。
そのため空調の設定温度が低いと寒いと感じる人が多いようです。
一方、客先への外出のためオフィスを出入りする頻度の高い営業担当者は、外気とオフィス内の気温差を強く感じます。
そのため、真夏の暑い屋外からオフィスに戻ったときにクーラーがあまり効いていないと、暑いと感じるでしょう。
また、営業という仕事柄、お客様に与える印象は重要です。
半袖のラフなシャツを着ている営業担当者と、シャツとジャケットを着た営業担当者ではどちらに説明に説得力を感じるでしょうか。
実は「ユニフォーム効果」という心理的な影響で、同じ話をしたとしてもシャツとジャケットを着ている方が説得力が出るという効果があるそうです。
業界にもよりますが、そういった影響から、営業の方は夏でも長袖シャツやジャケットを着ている場合が多いのです。
その格好でオフィスに出入りすれば、体感温度はもちろん高くなります。
つまり、同じオフィスに勤務していても、仕事内容によって体感温度が異なるのです。
男女の気温の感じ方の違い
男女では根本的に体のつくりが違います。体感温度では2℃以上も差があるそうです。
ショップジャパンの調査では、夏場のオフィスで7割以上の男性は暑い、過半数の女性は寒いと感じているという結果が出ています。
そして男女問わず、全体の54%が夏場のオフィスの温度は快適だと感じることはないと回答しています。
男女いずれかの快適な温度に設定すると、どちらかは快適ではなくなってしまう、難しい論点です。
お客様との気温の感じ方の違い
店舗や役所などでは、「空調が効きすぎていて寒い」というお客様からのクレームが入ることがあるそうです。
確かにうだるような暑さの屋外から屋内に入った際、思わず身震いし、鳥肌が立つような経験をしたことのある方は多いのではないでしょうか。
空調を設定している側からすると、外は暑いだろうから良かれと思ってしていることでも、外気との気温差の影響もあり、気温差で寒さを強く感じてしまうお客様もいるということです。
いずれのケースでも、誰かに合わせれば誰かが快適ではなくなってしまう可能性があります。
全員が快適な温度を空調だけで作ることは難しいということです。
自分で出来るオフィスの暑さ対策
ここまでの話で、クーラーだけでは快適なオフィス環境を作ることが難しいということはお分かりいただけたでしょうか。
温度の感じ方は十人十色。一つの設備で調整が難しい状況ということであれば、各自で対策をすることが最も手っ取り早く、問題を早期に解決できます。
では具体的に、オフィスの暑さ対策として個人でどのようなことができるかまとめてみましょう。
①ミニ扇風機を活用
オフィスのデスク周りに扇風機を設置すれば、自分に涼しい風を送ることができます。
近頃100円ショップや雑貨店では様々な小型扇風機を取り扱っています。
卓上に置くタイプのもの、クリップで挟んで設置できるものなど様々なタイプがあるので、自分の環境に合ったものを選びましょう。
また、電池、コンセント、USB、充電式など、電源の種類も様々です。
社内がフリーアドレスであったり、席の移動が多い場合はスリムタイプの場所を取らないもの、コンセントの確保が必要ないものを選ぶと便利です。
②冷却グッズを活用
人間の体を冷やすために効果的な方法は、太い血管が流れている場所を冷やすことです。
熱中症になったときの処置法として有名ですが、暑さを感じるときにも十分に効果があります。
首に巻くネッククーラーや、椅子の座面に敷くジェルクッションなど、様々な商品があるのでお好みのものを探してみましょう。
③清涼グッズを活用
拭くだけでひんやりするシート、スプレーするだけでひんやりするデオドラントスプレーなども手軽に使えて便利です。
上二つと比べると冷たさはあまり持続しませんが、瞬間的なひんやり効果は得られます。
個人でできる対策法の他に、もし同じオフィスで暑さをひどく感じる声が多いようであれば、窓にブラインドやカーテンをつけてほしいというリクエストを管理者に伝えてみましょう。
先に述べた通り、オフィスへの日の入り方によって室内の気温は上昇します。
最も効果的な方法はその日光が入ってくることを極力防ぐことです。
オフィス内の設備に関しては個人でどうにかできるものではないので、上司やオフィスの環境整備をしている人に掛け合ってみましょう。
いかがでしたでしょうか。
オフィスの気温整備は仕事の効率化、離職率の改善にもつながる課題です。
自分で対処できることは対処しつつ、より良い環境づくりのためにできることや提言できることをやってみましょう。