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工場・倉庫内の暑さは屋根の熱が原因か
工場・倉庫内が暑くてエアコンが効かないという話を聞くことが多くなっています。
工場や倉庫の暑さを放置しておくことはできません。
従業員の方の作業効率や士気にかかわるだけでなく、労働安全衛生規則という省令では作業環境の温湿度管理をしっかりと講じるよう使用者に義務付けており、従業員を雇用する人の義務であるとも言えます。
それでは、エアコンが効かない理由とは何でしょうか。
考えられるのは以下の3点です。
- エアコンの老朽化や破損。若しくは清掃不足による室外機の詰まり。
- 適切に空気が循環していない。
- 屋根から暑さが伝わってくる。
意外と盲点となるのは、屋根の暑さの伝播です。
日差しで屋根が熱くなる現象は、輻射熱(ふくしゃねつ)と言いますが、この輻射熱によって熱くなった屋根付近に暑さがとどまることで、室内の温度が下がらなくなります。夏場に2階建ての家の2階が暑くなるのはこれが原因です。
このページでは、屋根の暑さが実際にどのように室内に伝播しているのかの検証と対策を紹介していきます。
真夏日の屋根は非常に高温になる
最初に、真夏日に金属屋根の温度を測り、どれだけ温度が上がるのかを検証することにしました(場所は埼玉県川口市です)。
以下のスクリーンショットをご覧ください。気温は37.3度と非常に高くなっており、クーラー無しでは耐えられない暑さであることが分かります。
次に、3Fの高さにある金属屋根の温度を測ってみました。撮影時間は15時と最も暑いと思われる時間帯を選びました。
結果、59.6度と非常に高温となりました。屋根の上では激しい太陽光と金属屋根の熱で耐えられない暑さを感じます。
このように、真夏日の屋根は非常に高温になることが再確認できました。
屋根の暑さは屋内に伝播する
では、屋内はどうでしょうか?屋根の温度がどれだけ室内に伝播するのか気になるところです。
日を改めて埼玉県内の工場にお邪魔して屋根の室内温度を測った際は以下のような結果となりました。
温度計にあるように2020年4月6日12:30分に計測が行われましたが、外の気温は15.1度にも関わらず、屋根の温度は32.4度と2倍以上の暑さとなりました。実際に室内も汗ばむくらいの暑さを感じます。
撮影の時点では季節はまだ春のため、暑さとしては序の口でしたが、夏が本番となる7月~9月ともなるとエアコンがほとんど効かず、従業員の方のモチベーション低下、生産の効率性低下などに悩まされてきたとのことです。
そのためエアコンの温度を下げて対応していたとのことですが、それに伴う光熱費の増加が収益を圧迫している状態となり、経営的な問題にもなっていました。
上記を踏まえ、遮熱シートや水冷システムの導入などで屋根の温度を下げるような対策を提案し、施工致しました。
結果的に、一定程度室内温度を下げることができ、エアコンの効きも改善されたとのことです。
室内温度を下げるためには、屋根の温度を下げることが有効ということがこの事例から分かります。
なお、屋根の暑さ対策としてはこの他にも遮熱塗料を塗る、カバー工法で屋根を二重にするなどの対策が考えられます。どのような対策が打てるのかはその工場・倉庫の屋根の種類によって異なりますので、以下で詳しく説明していきます。
屋根の暑さ対策5つの方法
上記のように、工場・倉庫の屋根が太陽光によって熱せられ、その熱が屋内に伝播するというのが、工場・倉庫が暑くなる要因です。
これを解消するには、
- 遮熱をする
- 放熱する
- 熱の伝播を和らげる
という3つの方向性が考えられます。
更に、それぞれに適応した製品がありますので、屋根の種類によって最適なものを選択したり、幾つかを組み合わせたりすることが多いです。
遮熱塗料による塗装
遮熱効果のある塗料、いわゆる遮熱塗料を塗ることで、大きく屋根の温度を下げることができます。コスト面や効果面からみて非常に優れた方法のため、採用されるケースが多いです。
以下は、有名な塗料を塗り比べてその遮熱性を検証したものです。
このように、遮熱効果の高い塗料は、遮熱効果にやや劣る塗料と比べて、10度程度屋根の気温を下げる効果があります。
金属屋根の場合は、遮熱効果の高い塗料を活用されることをおススメ致します。ただし、アスベストを使用している屋根にはこの方法が使えないため注意が必要です。
遮熱シートの設置
屋根を遮熱シートで覆うことで遮熱する方法も効果があり、良く用いられます。
このように遮熱シートを設置した場所とそうでない場所では11℃程度の違いが出ており、遮熱塗料と同等かそれ以上の効果が見込めます。
一方で、屋根の形状によって設置できないこともあることに加え、屋根の面積が大きければ大きいほど費用がかかってしまうのがデメリットと言えます。
散水装置の設置
散水装置も屋根を冷やす効果があります。気化熱で屋根を冷やすといういわゆる打ち水と同じ原理となります。
上記のように散水前と比べて散水後は17度程度温度が下がっていることが分かります。
ただし、デメリットとして水道代がかかってしまうことが挙げられます。雨水を利用するようにタンクを設置するなどの工夫が必要です。
また、水道水を利用する場合、屋根の太陽光パネルにカルキが付着することもあります。太陽光パネルは高温になると発電効率が落ちますから、散水によって温度を下げるメリットは大きいのですが、注意が必要となります。
既存の屋根をカバー工法で覆ってしまう
下記で詳しく説明していますが、既存の屋根を新しい屋根で覆うカバー工法というリフォームも高い効果があります。
上記の方法と比べて直接的に屋根の温度を下げるというよりも、屋根を2重にすることによって、温度の伝播を緩やかにするという方法です。
アスベストを使用したストレート屋根の場合は塗装や散水はできませんので、カバー工法が現実的となります。
また、遮熱塗料が塗ってある屋根材を利用すれば、遮熱効果を更に上げることができます。
葺き替え
老朽化が進んで穴が開いてしまうような屋根の場合は、葺き替えが選択肢となります。
工場や倉庫の操業を止めなくてはならないなど、時間もお金もかかってしまいますが、遮熱塗料が塗られた屋根材に葺き替えることで暑さを低減できることに加え、見た目も綺麗にすることができます。
デメリットはやはりコスト面です。足場代や廃棄物処理費用などカバー工法と比較すると高額になってしまうのが難点と言えます。
屋根の種類と耐用年数は?古い波板スレートにはアスベスト(石綿)が含まれるため注意が必要
工場・倉庫に使われる屋根の種類に加えて、老朽化がどの程度進んでいるか、耐用年数を過ぎている様々な点からみて対処方法を考える必要があります。
以下、一般的な屋根の種類と耐用年数となります。
種類 | 耐用年数 |
波型スレート | 25~50年(ただし、部分補修は必要) |
折板(せっぱん) | 20~30年 |
瓦棒葺き(かわらぼうぶき) | 25~30年(ガルバリウム鋼板の場合) |
波型スレートとは
中小規模の工場・倉庫で多く使われており、ロックウール(石綿)をセメントで波型に成形した板が一般的です。※写真は金属板の波型ストレートです。
波型の形状をしており、工場の屋根と言えば、波型ストレートを想像する方も多いと思います。
波型スレートにも種類があり、小波スレートと大波スレートがあり、波の幅がJIS規格で定められています。
耐用年数は上記のように25~50年と非常に長く、コストパフォーマンスに優れることから、多く使われるようになりました。
しかし、波型スレート自体の耐久性は高いものの、ボルトで鉄骨に固定されているため、ボルトが老朽化することで、雨漏りや強風によって飛散するなどの問題が起こります。そのため、ボルトの取替えなどのメンテナンスは定期的に必要になります。
また、2004年以前に製造された波型ストレートは石綿が含有されており、除去時に飛散防止措置と産業廃棄物処理費用が必要となります(現在製造されている波型ストレートには石綿は含有されていません)。
なお、工場で働く従業員の方に健康被害が起きる可能性ですが、元々セメントで固形化されたものですから、老朽化している場合でも通常の使用で健康被害が起こる心配はあまりないと言われています。これは、石綿則ではレベル3に分類されていることからも、分かります(レベル1が最も危険)。
折板(せっぱん)とは
工場や倉庫で最もポピュラーな屋根と言えば、折板です。
波型スレートと違い、金属素材を山形に折り曲げたものが利用されます。
種類としては、以下の2種類が挙げられます。
- 重ね式折板屋根
- ハゼ式折板屋根
金属素材としては、ステンレス材などもありますが、コストの面からガルバリウム鋼板が一般的に使用されます。
屋根の野地板が不要であり、そのまま葺くことができることから、コスト面で非常に有利であり、鋼板が折り曲げ加工されているため、強度も高く、防水性にも優れています。
そのため、多くの工場や倉庫で一般的に使われるようになっています。
瓦棒葺(かわらぼうぶ)きとは
いわゆるトタン(亜鉛メッキ鋼板)屋根であり、おんぼろ長屋の屋根を思い浮かべる方も多いと思いますが、実際にトタンの耐久性は低く、耐久年数は15~20年とあまり長くはありません。
そのため、現在ではより耐久性に優れたガルバリウム鋼板が良く使われます。ガルバリウム鋼板であれば、耐用年数は25~30年と長くなります。
なお、「瓦棒(かわらぼう)」の意味ですが、トタン屋根を設置する際に取り付ける細い角木材のことを示しています。この瓦棒に金属の板を載せるようにして固定していきます。
そのため、見た目はコノ字の凹凸が並んでいるように見えます。
この瓦棒ですが、降雨の際に雨水を流すように作用する一方で浸水することで腐食しやすいという問題があり、現在では「心木なし瓦棒葺き」という瓦棒が無い屋根もあります。
屋根の種類ごとのメンテナンス・改修の方法
メンテナンス・改修の方法は、屋根の種類によって異なります。
屋根の種類 | |||
波型スレート | 折板 | 瓦棒葺き | |
1.塗装 | △ | 〇 | 〇 |
2.フックボルトの交換 | 〇 | △ | △ |
3.部分補修 | 〇 | △ | △ |
4.カバー工法 | 〇 | 〇 | 〇 |
5.葺き替え | △ | △ | 〇 |
※〇:一般的に良く行われている、△:コストなどの点からあまりおススメはできない。
以下、メンテナンス・改修について詳しく説明していきます。
塗装
折板などの金属屋根は錆が生まれやすいことから、定期的な塗装が必要となります。
一方、波型ストレートに関しては、老朽化が進むと脆くなることから、塗装よりも張り替えやカバー工法が望ましくなります。
また、2004年以前に製造された波型ストレート関しては石綿を含んでいるため、塗装の前段階で行われる高圧洗浄で石綿が流れる可能性もあり、そもそも塗装は望ましいものではありません。
そのため、あくまでも、石綿を含まない波型ストレートのみ塗装の対象となります。
フックボルトの交換
波型スレートは耐用年数が長いのですが、ストレートを固定するための「フックボルト」は金属ですので、風雨に晒されることで錆が発生し、腐食が進みます。
結果、浮きや隙間が発生し、雨漏りを誘発するケースが非常に多く見られます。最悪の場合、台風の強風で屋根が吹き飛び、周辺に地域に被害を及ぼす可能性もあります。
そのため、ストレートは既存のものを再利用しつつ、フックボルトのみを交換するというメンテナンスがよく行われます。ボルトを交換するだけでなく、錆防止のボトルキャップを付けるなどすることも有用です。
部分補修
波型スレートは一畳程度の大きさの板をボルトで固定していくため、穴の開いたストレートを部分的に交換・張替えすることも可能です。
現在では、ストレートに石綿が含まれていませんので、石綿の含まれない新しいストレートに交換するという安心感があります。
しかし、突発的な飛来物によって穴が開いた等の理由でなく、老朽化が主な原因である場合は、同様の問題が繰り返し起きかねないため、屋根全体を張り替える、カバーするなどを検討した方が良いでしょう。
カバー工法
既存の波型ストレート屋根の上に、ガルバリウム鋼板などの金属屋根を被せる工法です。
詳しくは以下で書きますが、操業の継続、コスト、施工期間、断熱効果の点で、葺き替えよりもメリットの大きな工法であり、多くの現場で採用されています。
この工法では、既存の波型ストレートを保存するため、産業廃棄物の処分費がほとんどかかりません。また、屋根が二重になりますので断熱性も向上します。
屋根カバーに使われる屋根材はガルバリウム鋼板が一般的で最近のものは生産時に遮熱塗料が塗られているので、夏の暑さ対策にもなります。
葺き替え
その名の通り、屋根を完全に新しくする方法です。
一般住宅では、重い瓦を軽い金属屋根に葺き替えるという耐震性向上を目的としたリフォームもありますが、工場・倉庫では瓦がありませんので、このような目的はありません。
石綿を含有する波板ストレートでも葺き替えは可能?
石綿障害予防規則(通称、石綿則)では、材料レベルによる分類があり、波板ストレート≒石綿スレートはレベル3で発じん性が比較的低いものとして分類されています。
なお、以前から大問題となっている吹付け石綿の場合はレベル1と分類されており、発じん性が著しく高いものとして扱われます。
石綿スレートの場合、セメントによって固形化された成形材なので飛散しにくく、健康被害は生じにくいと言われており、撤去作業時に保護具の着用や湿潤化を行えば、屋根の葺き替えも可能です。
ただし、別途産業廃棄物の処分費用がかかるというコストの面では問題はあります。
屋根を新しくする場合、葺き替えよりもカバー工法が一般的
上記で簡単に触れましたが、詳しく説明すると、以下3点のメリットがあるため、カバー工法が採用されることが多くなっています。
- 継続して操業できる
- コストが抑えられ、施工期間も短い
- エコである(廃棄物、光熱費の点で)
継続して操業できる
工場や倉庫自体の構造は一般住宅と異なり、鉄骨の上に屋根を設置する構造となっており、既存の屋根を除去した場合鉄骨しか残りません。
そのため、資材落下の危険性や風雨の問題もあり、葺き替えの場合は一定期間操業を止めざるを得ません。
既存の屋根の上を覆うようにして新たな屋根を作るカバー工法の場合は、こういった問題が起こりませんので、継続した操業が可能となります。
コストが抑えられ、施工期間も短い
上記の理由と同様となりますが、葺き替えの場合、作業のためには足場を組んで落下防止策を講じる必要が出てくることから、料金がより上乗せされることになります。
また、波板ストレートの場合、石綿を含有しているケースが多いことから、除去時の飛散防止措置や廃棄の問題もあり、若干費用が上がります。
一方でカバー工法の場合は、既存の屋根が利用できることから、このような費用がかからない分、コストを下げることができます。
エコである
近年、SDGsの考え方が多くの企業で採用されるようになってきましたが、屋根の葺き替えでは廃棄物が出ることになります。
カバー工法ではこのような廃棄物は発生しません。
また、会社の光熱費という面で見ると、屋根が二重になるとともに、金属屋根に塗られた遮熱塗料のお陰で、遮熱の効果がありますので、夏の暑い時期に冷房費用を抑えることができるというメリットもあります。